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近畿大学 薬学部 薬用植物園



しおり 14枚目 2022年3月25日RECRUIT

『医薬品』に なるサクラ ならないサクラ
 日本薬局方に載っています


 栽培品種も含めてサクラの分類を厳格にするのは とても難しく コツもいります。それでも、どの系統に近いのかがわかると桜を観る楽しみも いっそう深まります。一方、サクラは桜として、花、葉桜、紅葉をいつくしんでこそ『もののあわれ』も感じられ、品種や和名をいちいち考えるなどというのは興をそぐと思われるかもしれません。私自身も 桜を楽しむときには ざっくりと桜として観ていることもあります。

 しかし、薬学にいる私は、ひとくくりに桜というわけにはいかない理由もあります。なぜなら、ある種(シュ)のサクラの樹皮は生薬 オウヒ(桜皮)として日本薬局方に収載される立派な医薬品だからです。第 18 改正日本薬局方を厚生労働省のHPから閲覧すると、オウヒについて『本 品 は ヤ マ ザ ク ラ Prunus jamasakura Siebold ex Koidzumi 又 はカ ス ミ ザ ク ラ Prunus verecunda Koehne (Rosaceae) の樹皮である. 』と 記載されています。つまり、これ以外の種のサクラの樹皮は生薬 オウヒ として使うことはできず、どのサクラでも良いというわけではありません。オウヒは民間薬として古くから使われていますが、日本薬局方に収載されたのは平成 24 年 9 月の第 16 改正日本薬局方 第一追補からと、比較的最近です。そのため、それ以前の書籍や古いHPで更新されていないもの、それを検証せずにコピーしたものの中には、同属植物でもよいと書かれているものがあり、何かを調べるときには最新の情報を見る必要性をあらためて感じました。

 オウヒには鎮咳・去痰、解熱、排膿、解毒の作用があり、皮膚の化膿に用います。十味敗毒湯にも配剤されています。
 民間ではサクラの葉を お風呂に入れて使うと あせも に良いといわれています。また、葉(オオシマザクラが主)の塩漬けは桜餅に使われ、花やつぼみの塩漬けは桜茶にされます。桜茶はお正月や結納の席などおめでたいときに好んで使われています。さらにサクラは伝統的な工芸品にも利用されており、観賞だけではなく、私たちの身近で役に立っています。

植 物
★ ヤマザクラ
   Prunus jamasakura
   Cerasus jamasakura var. jamasakura  バラ科
★ カスミザクラ
   Prunus verecunda
   Cerasus leveilleana  バラ科
★ オオシマザクラ
   Prunus speciosa
   Cerasus speciosa  バラ科