ヒトを容姿などの見た目や身体の特徴で判断するルッキズム、日本語でいう外見至上主義は紛れもない差別の原因のひとつであるとともに、主に若者の間で深刻な問題となっていて、私も心を痛めています。本人にとっては切実なことだとはわかりますが、そもそも外見の価値観は時代によって変わるものなので、見かけの価値よりも本質を見極めて欲しいと思います。みかけに惑わされない社会へと成熟していきたいものですね。
ところが今回のしおりでは、センブリの外見と価値について取り上げます。あくまでもルッキズムではなく、根拠をもっての価値判断です。
スラっとスリムに背の高いセンブリ(主に栽培品)と横に広がって短いセンブリ(主に野生品)とでは、どちらの方が良品とされていると思いますか?この話の流れから、勘の良い方は丈の短い野生品に価値があると答えるでしょうね。大正解。ではなぜ?
苦味健胃の薬効を持ち医薬品である生薬センブリの基原は日本薬局方で『センブリの開花期の全草』であると決められています。開花期の全草を用いるのは有効成分のひとつであるスウェルチアマリン (swertiamarin) が全草に含まれ、、特に花で含まれる濃度が高いからです。
つまり栽培品は縦にすくすくと育ち背が高いですが、枝分かれが少なく植物1本あたりにつく花の数も野生品と比較すると少なくなります。
いっぽう、野生品は様々な環境に負けずに生育するためか、枝分かれが多くなり、そのため植物一本あたりにつく花の数が多くなります。つまり有効成分がたくさんついているということですよね。しかも、花と比較すると有効成分の少ない茎が無駄に長く茎伸びていないということは、有効成分の割合がますます大きくなります。
日本薬局方には生薬センブリ(当薬)について次のような記載もあります。『本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,スウェルチアマリン(C16H22O10:374.34)
2.0%以上を含む.』極端にいえば、背ばかり高くて、花の少ないセンブリはこの規定に合わず、生薬として認められないということも。。。ありえたりして。
センブリは日本の3大民間薬のひとつとして親しまれており、利用する方も比較的多いと思います。もし刻んでいないセンブリを購入することがあれば、背が低く、よく枝分かれし、花の数の多いものを選んでください。そして、袋の中に落ちている花も必ず一緒に煮だしてください。
と、偉そうに書きましたが、昨今、野生品のセンブリは果たしてどれだけ流通しているのか、実は疑問です。ほとんどが栽培品ではないかと思われます。東京の一部地域ではセンブリはすでに絶滅したとされ、絶滅危惧II類 (VU)、準絶滅危惧 (NT) としている都道府県もあります。確かにセンブリの同属植物は山などで見かけても、センブリそのものは見かけないように思います。
とりあげた植物 について
★ センブリ
Swertia japonica リンドウ科
開花期の全草:生薬 センブリ(当薬) 日局18