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近畿大学 薬学部 薬用植物園



しおり 45枚目  2023年5月23日 RECRUIT

春夏秋冬 -木のへん-
 夏(日本)  

 日本で木の右側に夏すなわち『榎』と書くと『エノキ』を指します。椿と同じく、榎も日本の国字(和字)で、それほど日本の文化や生活に大切な存在だったのでしょう。各地で神木とされています。 

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  当園でも このように立派に育っていますが、夏から冬にかけては、キカラスウリがエノキをつたい葉を広げ、花を咲かせ、実をならせているので、まるでキカラスウリの木のようですが、3月末に芽吹いてから、キカラスウリが成長するまでの数か月間は本来のエノキの姿を観るこができます。 

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そんな夏の木の花『榎の花(エノキノハナ)』は、俳句の世界でも夏(初夏)の季語とされることから、花も夏が盛りに違いないとすっかり安心していたところ、完全に裏切られました。 

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 ソメイヨシノの開花と同時期にエノキは新芽を出し花も咲き始めるので撮影を狙っていたのですが、子房が膨らみ始めた姿はとらえられても、エノキの花は小さく黄緑色でほとんど目立たないため、下から見上げる逆光の中、私のカメラの性能ではなかなか、ひとさまにみせられる花の姿を撮影できずにいました(と、責任をカメラに転嫁したい気持ちです)。

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 花があるようにも見えるのですが、上すぎてこれ以上大きく見えないし、撮れない。これではよくわからないですよね。とはいえ、夏の花ならばもう少し長い期間(初夏まで)順に咲くだろうと信じ、コンディションの良い時に撮影すればよいと ゆったりと構えていました。しくじりました。なんと当園のエノキは4月下旬までに花の季節を終えたようです。夏の花との思い込みは恐ろしく、まさかです。

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  ずっと気にかけているなか、GWがあまりに良い天気だったので、『そうだ、大阪では立夏までに花は終わっても、夏の季語というからには、夏になっても咲くに違いない!場所を変えれば夏の花かも』と、深く考えることなく早速ハンドルを握り、山にはまだ雪の残る長野や富山方面を目指しました。すると。

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 さすがに雪山には近づけませんが、そこそこ標高を上げると、サクラの類、シナレンギョウ、コブシ(?)、カエデの類の花たちや、フキノトウ、コゴミなどの山菜が見られ、いい感じです。これならエノキの花もと期待が膨らみ。。。かけましたが、いや違う、これらの花々を見て、オーッ 今年は2回も春を楽しんでいると喜ぶ自分をみて、「あっ、ここで、今、エノキの花を見つけても、季節は春だよね」と、意気消沈した浅はかな私でした。

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5月の青い実と9月の色づいた実

 さて、話題をエノキに戻しましょう。エノキは街道沿いや一里塚によく植えられています。枝分かれが多く大木になるので、夏には葉が作る陰の下で旅人が暑い日差しを避けて一休みできることから選ばれたようです。夏に樹陰の恩恵を与えてくれる木ということで『榎』の漢字があてられるようになったという説が通説になっています。冬には葉が落ちて、暖かな太陽の光が旅人に届くので、そういう意味でも旅人にはちょうど良さそうです。

 エノキの花の撮影は来年こそ!!  持ち越しの課題です。

 参考までに、中国では榎はノウゼンカズラ科の落葉高木トウキササゲを指します。

 とりあげた植物 について
★ エノキ (榎)
   Celtis sinensis ニレ科
    * DNA解析に基づくAPG分類体系ではアサ科に、形態や構造に基づく新エングラーの分類体系ではニレ科に分類されます
★ トウキササゲ
   Catalpa bungei  ノウゼンカズラ科
   果実:生薬 キササゲ 日局18