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近畿大学 薬学部 薬用植物園



しおり 49枚目  2023年11月4日 RECRUIT

春夏秋冬 -木のへん-
 秋(日本)  

 11月になっても、まだ日本のあちこちで夏日になる今年です。そのような中では、なかなか秋をはなす気持ちになれないのですが、ぐずぐずしていると、あと数日で立冬になってしまうと慌てて今のうちに秋の木について。もっともヒトの私よりもよほど優秀な植物たちはそれぞれに季節の移ろいを感じて反応しているのですが。(*夏日:一日の最高気温が25℃以上の日のこと)

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アカメガシワ
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キササゲ

 木偏に秋という字をご存知ですか。『楸』は漢字も訓読みの『ヒサギ』もほとんど馴染みがないようです。日本で楸(ヒサギ)はアカメガシワのことだとも、キササゲのことだとも言われています。  

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アカメガシワ

 漢字の本家 中国では今も昔も『楸』はトウキササゲを指しますが、椿もそうであるように、日本に漢字が入ってきたときに中国とは違う植物に漢字にあてることがあり、ヒサギ(アカメガシワの古名)にこの漢字をあてたといわれています。アカメガシワの黄葉があまりにも美しく、さらに落葉の様子もあわせて、アカメガシワが秋の木にふさわしいと考えたのでしょう。

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アカメガシワ
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キササゲ

 いっぽう、ヒサギはトウキササゲの同属植物のキササゲ(中国では梓)の古名ともいわれています。アカメガシワとキササゲの大きな葉は遠目には似ていないこともなく、混同されたのではという説もありますが、みなさんはこの2つの木の葉がどのくらい似ていると思いますか。現代人よりも植物を身近に暮らしていた古代の日本人が、アカメガシワとキササゲを混同したとも思えません。モミジ、サクラはそれぞれ総じてそう呼ぶことをおもえば、ざっくりと秋に大きな葉が散る大きな木をヒサギと呼んでいたとしても不思議ではないかも。  

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アカメガシワ
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キササゲ

 ヒサギは万葉集でも詠まれ、楸(ヒサギ)は秋のはじめに葉が散るので、今も初秋の季語として俳句に詠まれています。俳句の世界では、楸はアカメガシワとする方が優勢な気もします。  

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アカメガシワ
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キササゲ

 『アカメガシワの古名』とも、『キササゲの古名』ともいわれる『ヒサギ』に『楸』の字があてられたことには違いなく、本当はどちらを指すのかと議論することは、楽しくもありながら野暮だとも思われます。ただ、若芽、花、果実、落葉後の姿は結構違い、歌や句に表された情景を想うとき、ヒサギとして心に浮かぶ風景が少しは変わるかもしれません。  

 とりあげた植物 について
★ アカメガシワ  
   Mallotus japonicus  トウダイグサ科
   樹皮:生薬 アカメガシワ 日局18
★ キササゲ  
   Catalpa ovata  ノウゼンカズラ科
   果実:生薬 キササゲ 日局18
★ トウキササゲ  
   Catalpa bungei  ノウゼンカズラ科
   果実:生薬 キササゲ 日局18 局方には植物和名の記載はなく学名のみ記載